ベトナム人従業員を採用するときに、正しく個人所得税を計算・申告することは社会保険と合わせて非常に重要です。
今回のコラムでは、企業が行うべき源泉徴収の観点で、ベトナムの個人所得税の法令を解説しながら、適用事例も使って現地法人等でよくみられるパターンを説明します。
ベトナム現地法人が負担する駐在員の現地給与も今回の対象ですが、日本などベトナム国外で受け取り、現地法人とは関係ない所得(駐在員個人の申告分)は本コラムの対象外とします。
ベトナム人従業員の個人所得税の概要
現地法人や駐在員事務所は従業員の給与を計算する際、個人所得税を源泉徴収し税務局に申告納付する必要があります。申告納付は企業税コード(企業コード)で行います。月次や四半期の申告納付の際は合計金額のみを使用しますが、年末調整(確定申告)の際は従業員全員の詳細な給与情報も提出する必要があります。
なお、給与以外の手当等(現物支給を含める)は原則として課税所得とみなされますが、一部の条件を満たしたものは非課税所得になる場合もあります。以下はよくある項目の例です。
- 残業代の割増分は非課税です。例えば、平日の残業代は通常賃金の150%で計算されますが、課税所得は100%で、割増分(50%)は非課税となります。
- 福利厚生のうち、企業の財務規定で明記された支給条件と限度額を満たしたものは原則、非課税所得になります。
ただし、課税所得と非課税所得の検討は複雑でリスクもあるので、慎重に進めてください。
個人所得税の税率
3か月以上の労働契約を締結した場合は累進課税率で適用されますが、試用契約や3か月未満の労働契約を締結した場合、月給が2,000,000VND以上であれば、一律に10%で課税されます。
| 労働契約書区分 | 控除(基本・扶養家族) | 税率 |
| 試用期間(最大60日間) | 対象外 | 一律10%※月給が2,000,000VND以上のみ |
| 正式採用期間 | 対象 | 累進課税率(最大35%) |
また、以下は累進課税率のイメージです。累進課税率で課税される場合の税額は緑色部分の面積です。
課税所得が増えれば増えるほど税率が高くなり、80,000,000VND以上のケースでは最高税率35%が課税されます。

企業は従業員の給与から個人所得税(PIT)を源泉しますが、その申告・納付の期限は原則として月次となります。ただし、所定条件(付加価値税(VAT)申告を四半期にできる条件:新設企業の初年度、あるいは前年度の企業の売上が500億VND未満)を満たす場合、四半期ごとに申告・納付することも可能です。ちなみに、駐在員事務所はVAT申告手続きがそもそもないため、月次の申告のみとなります。
月次と四半期の申告期限は以下になります。
・月次 → 翌月20日
・四半期 → 翌四半期の初月の月末
個人所得税の申告の仕組み
現在ベトナムでは、個人所得税(PIT)申告は電子申告となっているため、政府機関に電子署名を登録し、その電子署名で申告しなければなりません。企業の電子署名は指定業者経由で登録することになります。USBに登録済電子署名が組み込まれ、署名の際はそのUSBをパソコンに差し込んで署名することになります。
なお、電子署名の登録作業とUSBの準備は、業者・有効期間によって料金に多少の差がありますが、法的には全て同じ効力です。よくあるプランは1年間、2年間、3年間の3つです。
個人所得税の納付方法
個人所得税の納付は銀行振込になりますが、以下2つの方法があります。
(a) 銀行のネットバンキングで電子納税を申請し、税務署システムと連携して納付する。
(b) 普通の振込手続きで、財務省指定所定依頼書も付けて納付する。
どちらの納付方法でも問題ありませんが、(a)の方が便利かつ正確で、政府にも奨励されています。
確定申告手続き
企業は年度末に個人所得税(PIT)の確定申告(年末調整)を行わなければなりません。
会計年度に関係なく、暦年ごとに確定申告を行う必要があります。
| 対象期間 | 毎年1月1日~12月31日 |
| 申告期限 | 翌年3月31日 |
対象期間に1社からのみ給与を受け取っている従業員は、その企業に確定申告を委任することができます。2社からの給与がある従業員は企業に委任できないので、自ら税務局に直接、確定申告を行う必要があります。
企業が行った確定申告で還付が発生する場合、当該企業は翌年度の四半期納付と調整し、還付金を対象従業員に返済することができます(従業員は税務署からの還付金を待つ必要はありません)。