ベトナム労働契約書の締結と署名

23/06/2025

日本人の方が日本からベトナムに赴任して現地で勤務するには、原則、労働許可証(WP)とビザ・TRCの取得が必要です。更に労働契約書の締結は必要か、また締結が必要となる場合、誰が署名するのかを説明していきます。

ベトナム現地法人と労働契約書は締結すべきですか。

外国人の勤務形態には大きく現地採用と社内異動(日本でいう出向)の2つがありますが、日本から赴任する駐在員は、その多くが出向(社内異動)の形態を取ります。出向の場合、ベトナム労務規定上、労働許可証(WP)を取得する際には親会社からの任命状のみを提出すればよいです。つまり、労務上は必ずしも現地との労働契約書が必須ではありません。

一方、ベトナム現地法人が一部でも駐在員の給与・手当を負担する場合、労働契約書がないと、税務上は損金不算入となるリスクもあるため、給与・手当をベトナム現地法人が負担する場合には、実務上は労働契約書の締結が必要と解釈されることが多いです(注*)。

労働契約書を締結する当事者(署名者)は誰になりますか。

現地法人の社長ではない駐在員がベトナム法人と労働契約書を締結する場合、雇用者側は駐在員が、使用者側はベトナム現地法人の法的代表者(多くの場合は社長)が署名を行うことになります。

一方、ベトナム現地法人の社長も雇用者として労働契約書を締結する必要になると、ここで誰が使用者として署名をするのか問題になってきます。

 

民法の規定:

民法第141条第3項に基づき、個人や法人は、互いに異なる複数の他の個人または法人の代理をすることができます。一方で、個人が自身を代理人とする第三者との間で民事取引を確立・履行することはできません。

企業法の規定:

企業法では、法的代表者との労働契約を締結できる者は会社の形態ごとに明確に規定されています。例えば1人有限会社の場合にはベトナム現地法人の会長となります。或いは委任手続きと決定(承認)手続きを正しく行えば、規定されている人以外が労働契約締結の権限を受任することも可能です。

ベトナムの民法と企業法どちらの条件もクリアしなければ厳密に署名はできませんので、以下3つのケースを民法と企業法の観点から見ていきます。

 

ケース① 社長が、雇用者側・使用者側いずれも署名する

民法と企業法いずれの観点からも、社長が使用者側の署名を行うことはできません。

 

ケース② 社長と、現地法人の会長が署名する

民法では、上の役職に委任するという点に違和感はあるものの、会長に委任した上で署名してもらうことは可能です。

 

一般的には日本本社の代表取締役や役員がベトナム現地法人で会長に就任するパターンが多いですが、企業法でも会長が使用者として署名することになります。また会長が法的代表者として社長を兼務するケースでは、出資者である日本本社の代表取締役が署名する規定となっています。ちなみに、あまり聞かないですが、日本本社の代表取締役や役員がベトナム現地法人で会長に就任しない場合には、日本での職位に関係なく、使用者側で署名することはできませんので、ご留意ください。

 

なお日系企業のほとんどは、1人有限会社(会長の形態)としてベトナム現地法人を設立しますが、他の会社形態を取るケースも見受けられます。

  • 1人有限会社(社員総会の形態)
  • 2人以上有限会社
  • 株式会社

 

この場合にも、上述した「会長」をそれぞれ「社員総会の会長」、「取締役会の会長」と置き換えて考えることができます。

会社形態会長の以下への置き換え
1人有限会社(社員総会の形態)社員総会の会長
2人以上有限会社社員総会の会長
株式会社取締役会の会長

 

社員総会の会長や取締役の会長も日本本社の代表取締役や役員が務め、使用者として労働契約書に署名することが一般的です。また仮に社員総会の会長や取締役会の会長が法的代表者として社長を兼務する場合には、社員総会・取締役会で任命された他者が労働契約締結権限を持ちます。

 

ケース③ 社長と、社長から委任された受任者が署名する

受任者が会長でない他者の場合にも、民法ではその受任者が署名することは可能です。企業法上は委任手続きと決定(承認)手続き実施した場合に限り、受任者が署名することができます。具体的には社長から委任する者への委任状、及び会長から委任する者への決定書(或いは承認書)を準備出来れば、その受任者が署名出来るようになります。

 

会社の形態が異なる場合には、ケース②と同様、上述した「会長」を以下の通り置き換えて考えます。

会社形態会長の以下への置き換え
1人有限会社(社員総会の形態)社員総会
2人以上有限会社社員総会
株式会社取締役会

 

ケースごとの署名可否(まとめ)

シチュエーション(ケース)民法企業法署名可否
①社長自身が署名する×××
➁会長(日本本社の代表取締役や役員)が署名する〇〇〇
③受任者が署名する〇△△

 

駐在員事務所と労働契約書は締結すべきですか。

駐在員が駐在員事務所に勤務する際、日本本社から給与を支給する場合にはWPを取得するために作成する任命状で足り、労働契約書を締結する必要はありません。ただし、駐在員事務所の所長にベトナム人が就任する際には、所長は駐在員事務所と労働契約書を締結することが多いです。駐在員事務所は会社ではないため、会長や社員総会、取締役会は存在せず、民法のみ適用されます。

シチュエーション(ケース)民法署名可否
➀所長自身が署名する××
➁受任者が署名する〇〇

 

日本本社の代表取締役が委任行為を行うのではなく、駐在員事務所の所長が委任する点がポイントです。

 

(注*)労働法上は労働契約書は不要です。労働契約書を締結していることを理由に、強制社会保険への加入を指摘される可能性がありますので、万が一、労務調査の際に強制社会保険の未加入を指摘されたら、社内異動のため加入義務がない旨を説明する必要があります。

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