logo

ベトナムの最低賃金

26/09/2024

ベトナムの最低賃金は2024年7月1日より6%引き上げられており、多くの日系企業が関心を寄せていました。そもそも最低賃金とはどういった制度で、どのように決定され、その変更が企業にどう影響を与えるか分からないことも多いかもしれませんので、以下で整理しながら説明していきます。

尚、最低賃金とは別に、基礎賃金も社会保険関連の規定に出てくることがあるので、併せて解説します。

最低賃金はどのように決められますか。

まず、最低賃金を決める指標と機関を見ていきましょう。

ベトナムの最低賃金は、現行労働法で規定される以下の指標を考慮して決定されます。

  1. 労働者およびその家族の最低生活水準
  2. 最低賃金と市場全体賃金の相関
  3. 消費者物価指数および経済成長率
  4. 労働の提供とニーズの関係
  5. 仕事と失業の状況
  6. 労働能力
  7. 企業の支払能力

最低賃金は、国家賃金評議会によって提案され、政府(首相)によって承認される仕組みとなります。ちなみに、2024年時点の国会賃金評議会は17人で、労働傷病兵省、労働連合、ベトナム商工会議所、中小企業協会、専門家団体等から派遣されるメンバーで構成されます。

最低賃金は今までどう変化してきましたか。

過去15年間(2009年~2024年)の推移をみると、最低賃金は2012年までに大きく増加した後、増加率が小さくなり、2017年以降は全エリアで5~7%とほぼ同様の増加率となっています。

表1)直近15年間の最低賃金(VND)の推移(金額・増加率 / エリア別・年度別)

エリア1エリア2エリア3エリア4
2009800,000740,000690,000650,000
2010980,00023%880,00019%810,00017%730,00012%
20111,350,00038%1,200,00036%1,050,00030%830,00014%
20122,000,00048%1,780,00048%1,550,00048%1,400,00069%
20132,350,00018%2,100,00018%1,800,00016%1,650,00018%
20142,700,00015%2,400,00014%2,100,00017%1,900,00015%
20153,100,00015%2,750,00015%2,400,00014%2,150,00013%
20163,500,00013%3,100,00013%2,700,00013%2,400,00012%
20173,740,0007%3,320,0007%2,900,0007%2,580,0008%
20183,980,0006%3,530,0006%3,090,0007%2,760,0007%
20194,180,0005%3,710,0005%3,250,0005%2,920,0006%
20204,420,0006%3,920,0006%3,430,0006%3,070,0005%
20224,680,0006%4,160,0006%3,630,0006%3,250,0006%
20244,960,0006%4,410,0006%3,860,0006%3,450,0006%

 

もう少し見やすい図にしますと、以下となります。

直近15年間の最低賃金
図1)直近15年間の最低賃金(VND)の推移(エリア別・年度別)

 

そして、日系企業が多いエリア1に絞った推移(増加率)も見てみましょう。

エリア1の最低賃金の増加率の推移
図2)エリア1の最低賃金の増加率の推移

最低賃金は地域によって異なりますか。

上記にも書いた通り、最低賃金は民間企業に提供されるもので、かつ地域(エリア)によって異なります。ベトナムの全ての地域を4つのエリアに分類されます。

日系企業が進出している地域でみると、各エリアの代表的な地域は以下です。日系企業の多くがエリア1に集中し、一部はエリア2まで進出していますが、エリア3までいくと、かなり特殊な事業に限定されるのが現状です。

エリア名該当地域
エリア1 (12.62%)ハノイ市、ホーチミン市、ハイフォン市、ビンズン省、ドンナイ省、等
エリア2 (15.18%)バクニン省、フエ省、ダナン市、エリア1の一部、等
エリア3 (24.82%)ハナム省、カントー省、ビンディン省、エリア1,2の一部、等
エリア4 (47.38%)エリア1,2,3の一部

最低賃金の変更頻度は特に規定されていませんが、2020年までは毎年、それ以降は2年ごととなっています。

次に、最低賃金の増加が企業にどのように影響するか見てみましょう。

ポイント1 失業保険納付額の増加

失業保険料の計算対象所得の限度額は最低賃金の20倍となるため、計算対象所得がこの限度額を超える場合、失業保険料も増加します。

以下はエリア1の例です。

所得額~93,600,000VND93,600,000VND
~99,200,000VND
99,200,000VND~
失業保険料の計算対象額2022年全額93,600,000VND93,600,000VND
2024年全額全額99,200,000VND

ポイント2 賃金体系の見直しの可能性

法令上は最低賃金が引き上げられるからと言って、全ポジションの給与を引き上げる必要はありませんが、社内賃金体系の最低ラインを最低賃金周辺に設定している場合には、最低ラインを修正した上、その上の階級も見直す必要が出てくるケースもあります。

基礎賃金

次に、基礎賃金を説明しましょう。最低賃金はよく耳にする言葉ですが、基礎賃金はあまり馴染みがない概念かもしれません。

基礎賃金とはベトナム人公務員の給与を計算するためのベース給与で、民間企業の労働者の最低賃金とは異なります。

ちなみに、2024年7月1日以降の基礎賃金は2,340,000VND/月ですので、社会保険と医療保険の計算限度額は46,800,000VNDになります。

基礎賃金は今までどう変化してきましたか。

最低賃金は地域によって異なりますが、基礎賃金はエリア別ではなくベトナム全土同じです。

参考までに、過去15年間の推移を見ると、昨年(2023年)は4年ぶりに大幅(21%)に増加し、今年(2024年)は更に大幅(30%)に増加したことが分かります。ちなみに2014年~2015年および2020年~2022年は基礎賃金の増加がなかったため、棒グラフを省略しています。

直近15年間の基礎賃金(VND)の推移
図3)直近15年間の基礎賃金(VND)の推移

更に図化してみます。

直近15年間の基礎賃金(VND)の推移
図3)直近15年間の基礎賃金(VND)の推移

この基礎賃金の増加は主に公務員の給与を上げる目的ですが、民間企業にも一部影響が出ます。

社会保険および健康保険の計算対象所得の限度額は基礎賃金の20倍ですので、基礎賃金が増加することにより、この限度額が引き上げられ、計算対象額も増加します。

以下はエリア1の例です。

所得額~36,000,000VND36,000,000VND
~ 46,800,000VND
46,800,000VND~
社会保険料と医療保険料の
計算対象額
2024年6月30日迄全額36,000,000VND36,000,000VND
2024年7月1日~全額全額46,800,000VND
上部へスクロール