ベトナムで従業員を採用するときに正しく個人所得税を計算・申告することは社会保険と合わせて非常に重要です。2026年は、新たに個人所得税法(109/2025/QH15)と税務管理法(108/2025/QH15)が7月1日に施行され、税率表・控除額・申告方法が大きく変わりました。給与所得に関する新しいルールは、2026年1月1日(2026年課税期間)に遡って適用されます。
本コラムでは、2026年9月末時点の法令に基づき、現地法人・駐在員事務所が支払う給与にかかる個人所得税の基本をまとめます。
ベトナム現地法人が負担する駐在員の現地給与も今回の対象ですが、日本などベトナム国外で受け取り、現地法人とは関係ない所得(駐在員個人の申告分)は本コラムの対象外とします。
ベトナム人従業員の個人所得税の概要
現地法人や駐在員事務所は、従業員の給与を計算する際、個人所得税を源泉徴収し税務局に申告納付する必要があります。申告納付は企業税コード(企業コード)で行います。四半期の申告納付の際は合計金額のみを使用しますが、年末調整(確定申告)の際は従業員全員の詳細な給与情報も提出する必要があります。
給与以外の手当や現物支給も原則として課税対象ですが、一部非課税となる場合もあります。以下はよくある項目の事例です。
- 深夜勤務・残業に対する給与:労働法の上限時間の範囲内であれば全額が非課税です(旧制度では割増部分のみ非課税)。また、未消化の年次有給休暇に対して支払う賃金も、労働法第113条第3項に定める条件・金額の範囲内であれば非課税です。いずれも法定の範囲を超える部分は課税対象となります。
- 食事手当:現金支給の場合は月1,200,000VNDまで非課税です。会社が食事を直接提供する場合は全額非課税です。
- 法定の退職手当・失職手当(社内規程・労働契約等で法定を上回る額を定めている場合は、その超過分も非課税)
ただし、課税所得と非課税所得の検討は複雑でリスクもあるので、慎重に進めてください。
個人所得税の税率
3か月以上の労働契約を締結した場合は累進税率が適用されますが、3か月未満の労働契約(試用契約を含む)の場合は、月給が5,000,000VND以上であれば一律10%で源泉徴収されます。
| 労働契約書区分 | 控除(基本・扶養家族) | 税率 |
| 3か月未満の労働契約 (試用契約を含む) | 対象外 | 一律10% ※月給が5,000,000VND以上の場合 |
| 3か月以上の労働契約 | 対象 | 累進税率(最大35%) |
※旧制度は月給2,000,000VND以上
| 課税所得(月額) | 税率 |
| 〜10,000,000VND | 5% |
| 〜30,000,000VND | 10% |
| 〜60,000,000VND | 20% |
| 〜100,000,000VND | 30% |
| 100,000,000VND超 | 35% |
※旧制度は7段階
家族控除(本人控除・扶養控除)も引き上げられ、本人分は月15,500,000VND(旧:11,000,000VND)、扶養家族1人あたり月6,200,000VND(旧:4,400,000VND)になりました。
申告・納付の期限
現地法人や駐在員事務所は従業員の給与から個人所得税を源泉徴収し、四半期ごとに申告納付します。旧制度下では月次申告納付を認められる現地法人・駐在員事務所もありましたが、現在は四半期申告納付に統一されています。
- 申告・納付期限:翌四半期の初月の末日(例:7〜9月分は10月31日)
個人所得税の申告の仕組み
現在ベトナムでは、個人所得税(PIT)申告は電子申告となっているため、税務当局に電子署名を登録し、その電子署名で申告しなければなりません。現地法人・駐在員事務所の電子署名は指定業者経由で登録することになります。USBに登録済電子署名が組み込まれ、署名の際はそのUSBをパソコンに差し込んで署名することになります。
なお、電子署名の登録作業とUSBの準備は、業者・有効期間によって料金に多少の差がありますが、法的には全て同じ効力です。よくあるプランは1年間、2年間、3年間の3つです。
個人所得税の納付方法
個人所得税の納付は銀行振込になりますが、以下2つの方法があります。
(a) 銀行のネットバンキングで電子納税を申請し、税務当局のシステムと連携して納付する。
(b) 普通の振込手続きで、財務省所定の納付書も付けて納付する。
どちらの納付方法でも問題ありませんが、(a)の方が便利かつ正確で、政府にも奨励されています。
確定申告手続き
現地法人・駐在員事務所は年度末に個人所得税の確定申告(年末調整)を行わなければなりません。会計年度に関係なく、暦年ごとに確定申告を行う必要があります。
対象期間 | 毎年1月1日~12月31日 |
| 申告期限 | 翌年3月31日 |
1社と3か月以上の労働契約を締結し、確定申告時点でその現地法人・駐在員事務所に在籍している従業員は、その現地法人・駐在員事務所に確定申告を委任できます(年の途中入社でも可)。他社からの所得があっても、月平均15,000,000VND以下で10%の源泉徴収済みであれば委任できます。それ以外で2社以上から給与を受け取っている従業員は、自ら税務局に直接確定申告を行う必要があります。また、医療費・教育費控除や寄付金控除を受けたい従業員も、本人が直接確定申告を行う必要があります。現地法人・駐在員事務所が行った確定申告で還付が発生する場合、当該現地法人・駐在員事務所は翌年度の四半期納付と調整し、還付金を対象従業員に返済することができます(従業員は税務局からの還付金を待つ必要はありません)。